「お客様に似合う眉がわかるし、ワックス脱毛の技術にも自信がある。なのに、なぜか指名が増えない…」 「カウンセリングで、いつもマニュアル通りの同じことしか聞けていない気がする」。そんな風に、日々のサロンワークの中で漠然とした成長の壁を感じている現役ブロウティストの方は、実は少なくないのではないでしょうか。私自身もキャリアの初期、施術スキルを磨くことばかりに夢中になり、お客様とのコミュニケーション、特にカウンセリングの重要性を見過ごしていました。
技術力だけでお客様を満足させられる時代は、残念ながら終わりを告げつつあります。情報が溢れ、お客様自身が多くの知識を持つようになった今、私たちが提供すべきなのは単なる「眉のデザイン」だけではありません。お客様一人ひとりの心に深く寄り添い、まだ言葉になっていない願いを形にし、「この人なら私のことを分かってくれる」という揺るぎない信頼関係を築くこと。その全てが、施術前のわずかなカウンセリングの時間に凝縮されています。
これから、単なる作業になりがちなカウンセリングを、お客様の心を掴んで離さない「感動体験」へと昇華させるための具体的な技術を、私の失敗談や現場で培った知見を交えながら、余すところなく解説していきます。
1. なぜカウンセリングが重要なのか
サロンの予約が立て込んでいると、つい「早く施術に入りたい」という気持ちが先行してしまうことがありますよね。駆け出しの頃の私はまさにそれで、カウンセリングは「お客様のオーダーを聞くための手続き」程度にしか考えておらず、数分で早々に切り上げていました。
もちろん、お客様の言う通りのデザインに仕上げるので、大きなクレームになることはありません。しかし、施術後のお客様の表情は、どこか晴れない。「こんなものかな」という、感動とは程遠い空気が流れていました。
この経験から痛感したのは、カウンセリングとは単に希望を聞く時間ではなく、お客様との信頼関係を築き、期待値を大きく超えるための最も重要なプロセスである、ということです。
では、なぜカウンセリングがそこまで重要なのでしょうか。その目的は、単に希望を聞くだけに留まりません。
お客様の不安を解消し、信頼関係を築くため
お客様は、自分の顔の印象を大きく左右する「眉」というパーツを、初対面の私たちに委ねようとしています。その心の中は、「本当にこの人に任せて大丈夫だろうか」「自分のコンプレックスをうまく伝えられるかな」といった不安でいっぱいです。この不安を解消し、安心感に変えることが、カウンセリグの第一の目的なのです。
期待を超える「設計図」を作るため
カウンセリングは、家を建てる前の「設計図作り」に例えることができます。どんなに腕の良い大工さんがいても、施主の想いが反映された緻密な設計図がなければ、満足のいく家は絶対に建ちません。私たちブロウティストにとっての設計図作りが、まさにカウンセリングなのです。
最高の眉という家を建てるため、以下のような項目を丁寧にヒアリングし、土台を築き上げます。
- お客様の骨格や筋肉
- ライフスタイル、普段のメイク、ファッションの好み
- 「どう見られたいか」という深層心理
この最初のプロセスでどれだけお客様の心に寄り添えるかが、最終的な満足度、ひいてはリピート率や指名数に天と地ほどの差を生む。この事実を、まずはっきりと認識することが、トップブロウティストへの第一歩と言えるでしょう。
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2. お客様の隠れたニーズを引き出す質問力
お客様の本当の願いを引き出す上で、「何かご希望のデザインはありますか?」という漠然とした質問だけでは不十分です。多くのお客様は、自分が本当にどうなりたいのかを明確に言語化できません。「流行りの平行眉にしたい」というオーダーの裏に、「きつい印象に見られるのをやめて、優しく見られたい」という真の願望が隠れていることは、日常茶飯事です。
この隠れたニーズ、いわば「宝物」を見つけ出すのが、プロの質問力です。それは尋問のようになってはいけません。お客様が心を開き、自然と話したくなるような、心地よいコミュニケーションをデザインする必要があります。
オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンの使い分け
カウンセリングの序盤では、まず「はい」か「いいえ」で答えられるクローズドクエスチョンから入るのが効果的です。これにより、お客様は緊張することなく、会話に参加しやすくなります。
- 「眉サロンのご利用は初めてですか?」
- 「普段、眉メイクで困ることはありますか?」
- 「眉ティントやアートメイクのご経験はございますか?」
お客様がリラックスしてきたら、次に「どうして」「どのように」といったオープンクエスチョンを使い、自由に語ってもらうスペースを作ります。
- 「(困ることがある、と答えたお客様に)具体的に、どんな時に、どのように困りますか?」
- 「理想の眉のイメージがあれば、教えていただけますか?」
- 「眉を綺麗にすることで、どんな自分になりたいですか?」
過去・現在・未来を探る質問
時間軸を意識した質問は、お客様の背景を立体的に理解するのに役立ちます。
- 過去: 「今まで眉の形で失敗したな、と感じた経験はありますか?それはどんなデザインでしたか?」(失敗パターンを知る)
- 現在: 「今日のメイクで、特にうまくいった部分や、逆に時間がかかった部分はどこでしょう?」(現状のスキルや悩みを把握する)
- 未来: 「もし理想の眉になったら、どんなファッションやメイクに挑戦してみたいですか?」(なりたいイメージを具体化する)
以前、あるお客様が「とにかく細めのアーチ眉に」と強く希望されたことがありました。しかし、未来の質問を投げかけたところ、「来月の同窓会で、昔の友人に『垢抜けたね』って言われたいんです」という本音を話してくれました。その言葉から、彼女が求めているのは単なる細い眉ではなく、「洗練された大人の女性」という印象なのだと気づきました。そこで、細すぎず、骨格に合わせた上品なアーチを提案したところ、仕上がりを見て涙を流して喜んでくださり、今では私の大切なお客様の一人です。
質問は、お客様の心の中を旅する冒険のようなもの。用意された地図(マニュアル)通りに進むだけでなく、目の前のお客様という未知の大陸に好奇心を持って接することで、初めて見える景色があるのです。

3. 骨格や表情筋から似合う眉を提案する
お客様の「なりたいイメージ」を最大限に尊重しつつ、そこにプロとしての専門的な視点を掛け合わせ、「似合うデザイン」を提案すること。これこそが、ブロウティストの腕の見せ所であり、お客様がサロンに足を運ぶ最大の理由です。
「丸顔にはアーチ眉」「面長には平行眉」といった、雑誌に載っているような単純なセオリーだけでは、プロフェッショナルとは言えません。人間の顔はもっと複雑で、一人ひとり全く違う個性を持っています。私たちは、その個性をミリ単位で見極め、その人だけの「黄金比」を導き出す必要があります。
プロが見るべき分析ポイント
カウンセリングでは、お客様の顔をただ眺めるのではなく、以下のポイントを意識的に観察し、それを言葉にして伝えながら提案を行います。
- 骨格: 眉頭の上にある眉弓筋の高さ、額の丸みや広さ、こめかみの凹凸などを指で優しく触れながら確認します。「お客様は眉骨がしっかりされているので、眉山を少しだけ外側に設定すると、骨格の美しさが際立ちますよ」というように、骨格を活かす提案をします。
- 表情筋: お客様に、笑ったり、驚いたり、様々な表情をしてもらいます。話している時、笑った時に、左右どちらの眉が上がりやすいか、眉間にシワが寄る癖はないかなどをチェックします。この癖を無視してデザインすると、真顔の時は綺麗でも、動いた瞬間に不自然な眉になってしまいます。「お話しされる時に右の眉が少し上がる癖がおありなので、デザインは左右対称に作りつつ、ご自宅でのメイクで右眉の下ラインを少しだけ描き足すと、よりバランスが整います」と、具体的なアドバイスまで繋げます。
- 左右差: ほとんどの人が顔に左右差を持っています。その原因が、骨格によるものなのか、筋肉の癖によるものなのかを見極めます。その上で、どちらの眉を基準に合わせるのが最も魅力的に見えるか、そしてデザインでどこまで補正でき、どこからはメイクの力が必要になるのかを、正直に、そして丁寧にお客様に説明することが重要です。
大切なのは、「なぜ」そのデザインを提案するのか、その理論的な根拠をしっかりとお客様に伝えることです。感覚やセンスだけで語るのではなく、「あなたの骨格と筋肉がこうなっているから、このデザインが最も魅力を引き出すのです」とロジカルに説明することで、お客様は深く納得し、プロとしての私たちに全幅の信頼を寄せてくれるようになるのです。
4. ブロウティストとしての信頼を築く言葉遣い
お客様との信頼関係は、技術や知識以前に、何気ない一言一言の積み重ねによって築かれます。特に、お客様がコンプレックスに感じているかもしれない部分に触れる際は、最大限の配慮が必要です。私たちの言葉一つで、お客様を天国に導くことも、無意識に傷つけてしまうこともあるのです。
ネガティブをポジティブに変換する
お客様の眉の状態を指摘する際、事実をそのまま伝えるだけでは、冷たい印象や否定的な印象を与えかねません。プロとして、それをポジティブな言葉に変換する「翻訳力」を身につけましょう。
- NG例: 「左右の高さが全然違いますね」
- OK例: 「左右で眉の生えている位置に個性がありますね。より素敵に見えるように、こちらの高い方に合わせてバランスを整えていきましょうか」
- NG例: 「ここ、昔抜いたせいか全然毛がないですね」
- OK例: 「この部分は少し毛がまばらなので、デザインを整えた上で、ご自宅で簡単にできるメイク方法もしっかりお伝えしますね。ご安心ください」
専門用語の壁を作らない
ブロウティスト同士で使う専門用語を、そのままお客様に使っていませんか?「ディレクション」「ラミネーション」「インターセクション」…こうした言葉は、お客様を煙に巻くだけでなく、無意識のうちに「先生と生徒」のような上下関係を作り出してしまいます。
- 基本的には、「毛流れ」「眉頭の立ち上げ」「眉頭」など、誰にでも分かる平易な言葉に置き換えることを徹底しましょう。
- どうしても専門的な技術名を出す必要がある場合は、「眉毛の毛流れを整える『ブロウラミネーション』という施術があるのですが、これをすると眉頭の毛が自然に立ち上がって、すごく垢抜けた印象になるんですよ」というように、必ず簡単な解説をセットで伝えます。
心地よい距離感を作るクッション言葉
何かをお願いしたり、少し踏み込んだ質問をしたりする際には、「よろしければ」「差し支えなければ」「もしよろしければ」といったクッション言葉を挟むだけで、言葉の印象が格段に柔らかくなります。
新人時代、知識をひけらかしたい一心で専門用語を多用し、お客様をポカンとさせてしまった苦い経験があります。お客様が本当に求めているのは、専門知識のひけらかしではなく、リラックスして何でも話せる安心できる空間です。心地よい言葉遣いは、その空間を作るための最も基本的な、しかし最も重要なスキルなのです。
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5. リピートに繋がるアフターケアの説明
施術直後、鏡を見て「わあ、きれい!」と感動していただくこと。それはもちろん大切です。しかし、本当の勝負はそこから。お客様が家に帰り、次の日、またその次の日も、その綺麗を自分で再現できるか。その感動を持続させられるか。そこに、リピートの分かれ道があります。
アフターケアの説明は、単なる「作業の締めくくり」ではありません。お客様の美しさに最後まで責任を持つという、私たちのプロ意識の表明です。
具体的、かつ、シンプルに
「保湿をしっかり」「洗顔は優しく」といった漠然としたアドバイスでは、お客様の行動には繋がりません。何を、いつ、どのようにすれば良いのか、誰にでも実践できるレベルまで具体的に落とし込んで伝えることが重要です。
- NG例: 「保湿をしっかりしてください」
- OK例: 「お風呂上がりの一番お肌が柔らかい時に、いつもお使いの化粧水を染み込ませたコットンで、眉周りを優しく30秒ほどパックしてあげてください。これだけで、次回のワックス脱毛の際の赤みや痛みが全然違いますよ」
お客様一人ひとりにパーソナライズする
カウンセリングで引き出したお客様の悩みに、ピンポイントで応えるアドバイスをしましょう。
- 「右眉の眉尻が消えやすいのがお悩みでしたよね。お手持ちのこのペンシルなら、ここの足りない部分を、力を抜いて一本一本植えるように描き足してあげると、すごく自然に仕上がりますよ」
- 「朝のメイク時間を短縮したいとのことでしたので、このパウダーを使って、眉頭から眉山にかけてサッと色を乗せるだけで形が決まるようにデザインしておきました」
なぜそれが必要なのかを伝える
ただやり方を説明するだけでなく、そのケアがどんなメリットをもたらすのかを伝えることで、お客様のモチベーションは格段に上がります。
- 「スクリューブラシで毛流れを整える一手間を加えるだけで、眉の立体感が全然変わってくるんです。光が当たった時にツヤが出て、若々しい印象になるんですよ」
理想は、お客様のポーチに入っているメイク道具を実際に借りて、それらを使いながらお客様の目の前でメイクを再現してみせること。そして、お客様自身にも一度手を動かしてもらう。私たちが提供するのは一方的な「ティーチング」ではなく、お客様が自走できるようになるための「コーチング」である、という視点が、お客様との長期的な信頼関係を育むのです。

6. 次回予約を自然に促すテクニック
「次回予約を勧めるのが苦手…」「営業だと思われたらどうしよう…」。この悩みは、多くのブロウティストが抱えるものです。しかし、考え方を少し変えてみてください。次回の提案は、商品を売りつける「営業」ではなく、お客様の美しさを継続させるための「プロとしての責任」なのです。
お客様は、眉をどうメンテナンスすれば良いか分かりません。だからこそ、プロである私たちが「あなたの眉が最も美しい状態を保つためには、このタイミングで、こういうケアをするのがベストですよ」と、責任を持ってガイドしてあげる必要があるのです。
鍵を握るタイミング
次回予約を促すのに最適なタイミングは、施術がすべて終わり、鏡で完成した眉を見てお客様の満足度が最高潮に達している瞬間です。「きれいになった!」という感動が冷めやらぬうちに、未来の話に繋げます。
「あなたのため」が伝わる伝え方
ただ「次回どうしますか?」と聞くのではなく、お客様にとってのメリットを明確に伝えましょう。
- 美眉の維持計画を提示する:
「今日整えたこの綺麗な形をキープするために、毛周期を考えると、だいたい3週間から1ヶ月後、具体的にはこの日あたりがベストなメンテナンス時期になります。この周期で整えていくと、だんだん眉の形が定着してきて、ご自身でのお手入れもすごく楽になりますよ」 - 未来の楽しみを想像させる:
「今回はお客様の骨格を活かしたナチュラルなデザインにしましたが、もし次回よろしければ、もう少しシャープなデザインに挑戦して、クールな雰囲気を楽しんでみるのも絶対に素敵だと思います」 - プレッシャーを与えない選択肢:
「もし既にご予定が分かりそうでしたら、良いお時間帯が埋まってしまう前に、今日この場で仮に押さえておくこともできますが、いかがなさいますか?もちろん、後日ネットやお電話でご予約いただくのでも全く問題ありません」
私自身、昔は押し売りに思われるのが怖くて、この最後の一言がなかなか言えませんでした。しかし、「次回の提案をするのはプロとしての義務」とマインドセットを変えてからは、驚くほど自然に言葉が出るようになり、お客様も「じゃあ、お願いしようかな」と、快く予約を入れてくださる確率が劇的に上がったのです。お客様は、私たちからの提案を待っているのかもしれません。
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7. お客様の不安を解消する寄り添い方
特に初めて眉サロンに来店されるお客様や、過去に他のサロンで思い通りの仕上がりにならなかった経験を持つお客様は、期待と同じくらい、あるいはそれ以上に大きな不安を抱えています。この見えない不安を、いかに早い段階で取り除き、安心感に変えてあげられるか。その細やかな配慮が、お客様の心を掴む鍵となります。
施術中の時間は、お客様にとっては何をされているか見えない「ブラックボックス」です。だからこそ、私たちはそのブラックボックスを透明化し、お客様が常に安心していられる状況を作り出す必要があります。
まずは共感、そして傾聴
お客様が過去の失敗談や不安を口にされたら、決してそれを否定したり、遮ったりしてはいけません。まずは「そうだったんですね、それはご不安でしたよね」「細くなりすぎると、元に戻るまで時間がかかって心配になりますよね」と、相手の気持ちに寄り添い、徹底的に聞き役に徹します。お客様は、ただ話を聞いてもらうだけで、心が少し軽くなるものです。
施術プロセスの実況中継
「百聞は一見に如かず」と言いますが、施術中は「見えない」からこそ、「百聞」が重要になります。今から何をするのか、それはどんな感覚なのかを、一つひとつ丁寧に言葉にして伝えましょう。
- 「今からお肌を保護するオイルを塗っていきますね。少しひんやりしますよ」
- 「こちらが本日使うワックスです。人肌くらいの温かさで、心地よく感じる方もいらっしゃいます」
- 「では、右眉から毛を抜いていきますね。少しチクっとした痛みがあるかもしれませんが、もし我慢できない時は、遠慮なくすぐに教えてください」
この「実況中継」があるだけで、お客様は次に何が起こるかを予測でき、心の準備ができます。この安心感は絶大です。
途中で確認する時間を作る
特にワックス脱毛で大きく形を変える時などは、片眉が終わった段階や、ある程度のアウトラインができた段階で、一度お客様に手鏡をお渡しして、途中経過を確認してもらうのも非常に有効です。「今、不要な部分をワックスで取って、このようなアウトラインになりましたが、太さなどはいかがでしょうか?」と確認することで、お客様は「ちゃんと自分の希望通りに進んでいる」と安心できますし、万が一イメージのズレがあった場合も、この段階で修正が可能です。
寄り添うとは、特別なことをするわけではありません。相手の立場に立って、「自分がお客様だったらどう感じるか」を想像し、不安に思うであろうことを先回りして解消してあげる。その細やかな心遣いの積み重ねが、揺るぎない信頼へと繋がっていくのです。
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8. トップブロウティストが実践する会話術
カウンセリングが終わった後の施術中の時間。お客様によってはリラックスして眠りたい方もいれば、会話を楽しみたい方もいます。この時間、何を話せばいいのか分からず、気まずい沈黙が流れてしまった経験はありませんか?
施術中の会話は、単なる暇つぶしではありません。お客様に心地よい時間を過ごしてもらうための、これもまた重要な「サービス」の一環です。そして何より、お客様の人柄やライフスタイルをさらに深く知るための、絶好のチャンスでもあります。
会話は「情報提供」の場と心得る
無理にプライベートな話を探る必要はありません。私たちは「美容のプロ」なのですから、その専門性を活かした情報提供が、お客様にとって最も価値のある会話になります。
- 「最近、すごく描きやすいアイブロウペンシルが出たんですけど、芯が絶妙な楕円形になっていて…」
- 「眉周りも、実は日焼け止めをしっかり塗らないと、将来的にシミの原因になりやすいんですよ」
- 「もし眉メイクが崩れやすいと感じたら、最後にフェイスパウダーをブラシで軽く乗せてあげると、持ちが全然違いますよ」
こうした「プロならではの豆知識」は、お客様にとって非常に有益であり、あなたの専門性への信頼を高めることにも繋がります。
プライベートな質問の心地よい距離感
もちろん、お客様との関係性を深める上で、プライベートな会話も有効です。ただし、いきなり踏み込みすぎるのはNG。まずは、相手が答えやすい、当たり障りのない話題から始めるのが鉄則です。
- 褒め言葉から入る: 「そのピアス、すごく素敵ですね!今日のファッションにも合っていてお洒落ですね」
- 休日の過ごし方: 「もうすぐ連休ですけど、どこかお出かけのご予定とかあるんですか?」
- 最近の興味: 「最近何かハマっていることとか、ありますか?」
ここで重要なのは、お客様の反応を注意深く観察することです。話が弾むようであれば少しずつ話を広げ、もし反応が薄かったり、あまり話したくなさそうだったりした場合は、すぐにその話題を切り上げ、静かな時間を提供するのがプロの配慮です。
目を閉じてリラックスされているお客様、短い返事しか返ってこないお客様。そうしたサインを察知したら、無理に会話を続ける必要はありません。「静かに過ごしたい」というお客様のニーズに応えることも、最高のおもてなしなのです。心地よい沈黙は、決して気まずいものではありません。

9. 客単価を上げるメニュー提案のコツ
サロンの売上を安定させ、私たち自身の評価を高める上で、客単価の向上は避けては通れないテーマです。しかし、メニューの追加提案、いわゆる「アップセル」や「クロスセル」に、苦手意識を持っている方も多いのではないでしょうか。
ここでも最も大切なのは、カウンセリングの時と同じく、「自分の売上のため」ではなく、「お客様の悩みを解決するため」という視点に立つことです。お客様がまだ気づいていない、あるいは言い出せずにいる悩みを私たちがプロの視点で見つけ出し、その解決策として最適なメニューを提示する。このスタンスさえブレなければ、提案は「押し売り」ではなく、「親身なアドバイス」としてお客様に受け入れられます。
提案は「カウンセリング時」がベスト
施術が始まってから「これもどうですか?」と追加していくのは、お客様を急かしてしまう印象を与えかねません。最も効果的なのは、カウンセリングでお客様の悩みを聞き出すプロセスの中で、自然な流れで提案することです。
- 悩みに直結させる: 「眉の色が黒くて、少し重たい印象になるのがお悩みでしたら、眉スタイリングと合わせて、カラーリングで少しだけ色を明るくしてあげると、一気に透明感が出て垢抜けますよ。セットのコースだと少しお得になりますが、いかがなさいますか?」
- メリットを具体的に語る: 「眉の左右差をメイクで合わせるのが難しいとのことでしたね。それでしたら、眉毛のパーマで毛流れを矯正してあげると、毎日のメイクが本当に楽になります。朝、ブラシでとかすだけで形が決まるようになりますよ」
Before/Afterで未来を見せる
言葉だけで説明するよりも、視覚に訴える方が何倍も効果的です。提案したいメニューの施術事例(ビフォーアフター写真)をタブレットなどですぐに見せられるように準備しておきましょう。「このフェイスワックスを追加すると、こんな風にお顔全体の産毛がなくなって、肌のトーンがこれだけ明るくなるんです」と見せることで、お客様は自分がどうなれるのかを具体的にイメージできます。
断られても落ち込まないマインド
忘れてはならないのは、提案はあくまで「選択肢の提示」であるということです。お客様には、それを選ぶ権利も、選ばない権利もあります。もし断られたとしても、それはあなた自身が否定されたわけでは全くありません。「承知いたしました。またもし気になったら、いつでもお気軽にお声がけくださいね」と、笑顔で爽やかに引き下がりましょう。その潔さが、逆にプロとしての信頼に繋がることもあるのです。
10. カルテ管理とパーソナルな関係作り
一度きりの施術で終わるか、それとも生涯にわたって眉を任せてもらえるパートナーになれるか。その運命を分けるのが、日々の「カルテ管理」です。カルテは、単なる施術記録ではありません。それは、お客様一人ひとりとの絆を育むための、世界に一つだけのコミュニケーションツールです。
トップブロウティストたちは、このカルテの重要性を深く理解し、徹底的に活用しています。
カルテには「心の記録」を残す
施術内容やデザインの詳細を記録するのは、もはや当たり前のことです。差がつくのは、そこに何をプラスアルファで書き記すかです。
- 会話の内容: 施術中に話した、ささいな会話をメモしておきましょう。「来月、友人の結婚式がある」「最近、愛犬を飼い始めた」「〇〇というアーティストにハマっている」など。
- お客様の悩みや願望: カウンセリングで聞き出した、眉に関する悩みや、将来なりたいイメージ。「本当はもう少しキリッとした印象にも憧れている」「次は少し細めに挑戦してみたい」といった言葉を記録します。
- 肌の状態や体調: 「今日は少し肌が敏感そうだった」「花粉症の時期は赤みが出やすい」など、その日のコンディションも重要な情報です。
次回来店時に魔法をかける
これらの「心の記録」は、次にお客様が来店された時に、絶大な効果を発揮します。
- 前回の会話に触れる: 「〇〇様、こんにちは!先月お話しされていた、ご友人の結婚式はいかがでしたか?」
- 悩みを覚えていることを示す: 「前回、右眉が少し描きにくいとおっしゃっていましたが、その後いかがでしょう?」
- 未来の提案に繋げる: 「以前、細めのデザインにも挑戦してみたいとおっしゃっていましたよね。今日の眉の状態なら、少しシャープなラインも作れそうですが、試してみますか?」
お客様の立場になってみてください。数週間、数ヶ月ぶりに訪れたサロンで、担当者が自分のささいな会話まで覚えていてくれたら。自分の悩みに、ずっと寄り添ってくれていたら。それは、単なる「お客様とスタッフ」という関係を超えた、深い感動と信頼が生まれる瞬間です。「この人は、流れ作業ではなく、本当に私のことを一人の人間として見てくれている」。そう感じてもらえた時、お客様はあなたの「ファン」になるのです。
カルテ管理は、地味で時間のかかる作業かもしれません。しかし、この小さな積み重ねこそが、誰にも真似できないあなただけの強みとなり、「あなたにお願いしたい」という確かな指名に繋がっていくのです。
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カウンセリングを「技術」に昇華させ、選ばれるブロウティストへ
ここまで、売上と指名を倍増させるためのカウンセリング術について、様々な角度からお話ししてきました。もしかしたら、意識すべきことが多くて大変だと感じた方もいるかもしれません。
しかし、最も大切な根幹は、驚くほどシンプルです。それは、目の前のお客様一人ひとりに、心からの興味と敬意を持つこと。そして、自分の持てる知識と技術の全てを使って、その人の人生がより輝くためのお手伝いをしたいと、本気で願うこと。今回ご紹介したテクニックはすべて、その想いを正しくお客様に伝えるための「手段」に過ぎません。
カウンセリングは、もはや施術前の単なる「作業」ではありません。お客様の心に深く潜り、隠れた宝石を見つけ出し、骨格や筋肉という素材を読み解き、最高の未来をデザインする、極めてクリエイティブで専門性の高い「技術」なのです。
今日から、たった一つでも構いません。今回お伝えしたことを、ぜひ明日のサロンワークで実践してみてください。質問の仕方を変えてみる。アフターケアの説明を少しだけ具体的にしてみる。その小さな一歩が、お客様の表情を、そしてあなた自身のブロウティストとしての未来を、確実に変えていくはずです。技術とカウンセリングという強力な両輪を携え、お客様から「あなたでなければ」と選ばれる、唯一無二の存在を目指しましょう。
