「黄金比通りに描いたはずなのに、なぜかお客様の顔にしっくりこない」「教科書通りの形にはなるけれど、個性が消えてしまう」。プロとしてアイブロウの施術やメイクを追求する中で、このような壁にぶつかった経験はありませんか?
私自身、キャリアの初期は定規やコンパスを使った「数値上の正解」に固執し、お客様の本来の魅力を引き出しきれずに悩んだ時期がありました。
人間の顔はキャンバスのように平らでも、完全な左右対称でもありません。
丸顔、面長、ベース型といった「顔型(フェイスライン)」と、その人が本来持っている「骨格の凹凸」を読み解き、視覚効果(錯視)を利用してバランスを整えることこそが、真の「似合わせデッサン」です。
眉は顔の額縁と言われますが、適切なフレームをあてがうことで、丸い顔をシャープに見せたり、長い顔をコンパクトに見せたりと、顔立ちの印象自体を操作することが可能です。
この記事では、感覚的なセンスに頼りがちな眉デザインを、論理的な理論へと落とし込みます。明日からのサロンワークですぐに使える、プロ仕様のデッサン術と描き分けの極意を徹底的に解説します。
1. 顔型に合わせた眉デザインの基本理論
似合わせデッサンの第一歩は、顔の形を客観的に分析することから始まります。しかし、「丸顔だからアーチ眉」といった単純な暗記では、実際の複雑な人間の顔には対応できません。
プロが押さえるべきは、「顔の重心」と「余白のバランス」をどうコントロールするかという構造的な理論です。
相殺の法則(補正理論)
基本となる考え方は、「コンプレックスや強調したくない部分と、逆の要素を眉に取り入れる」という相殺のアプローチです。
例えば、顔の横幅が広く平面的に見える場合は、眉に高低差をつけて縦のラインと立体感を強調します。
逆に、顔の縦幅が長く見える場合は、眉を横に長くフラットに描くことで、顔の余白を横に分断します。
私がカウンセリングを行う際、まず最初に見るのは「おでこの広さ」と「顎のライン」です。ここを見ることで、その人の顔の重心がどこにあるのか(上重心か下重心か)、そしてどの部分の余白を埋めればバランスが整うのかが見えてきます。
| 顔型の特徴 | 視覚的な課題(悩み) | 解決するための眉デザイン理論 |
| 丸顔(ラウンド) | 顔の縦横比が1:1に近い。フェイスラインに丸みがあり、幼く見えたり、平面的に見えたりする。 | 眉山に角(カド)を作り、縦のラインを強調する。丸みのある輪郭に対して直線をぶつけることで、シャープさを生む。 |
| 面長(ロング) | 横幅に対して縦の長さが目立つ。大人っぽいが、間延びして見えたり、老けて見えたりすることがある。 | 眉山を低くし、横への広がりを意識する。顔の縦の空間を眉で分断することで、小顔効果を狙う。 |
| ベース型(スクエア) | エラが張っており、顎先が平坦。骨格がしっかりしていて、意志が強く見える反面、男性的になりがち。 | 眉山を外側に設定し、長めのアーチを描く。エラの角張ったラインを、眉の曲線で中和させる。 |
| 逆三角形 | 顎がシャープでハチ(頭の横幅)が張っている。キツく見られたり、寂しげに見られたりする。 | 眉山を内側に入れすぎず、なだらかな並行アーチにする。ハチの張りをカモフラージュする長さを出す。 |
このように、眉のデザインは単なる「形」ではなく、顔全体のバランスを補正する「バランサー」としての役割を担っています。次章から、それぞれの顔型に対する具体的なデッサンテクニックを深掘りしていきましょう。
関連記事:【完全版】左右対称の眉が描けないあなたへ|アイブロウデッサンで克服するシンメトリーの法則
2. 丸顔をシャープに見せる眉デッサン
日本人に最も多いと言われる「丸顔」。ふっくらとした頬や丸い顎は、親しみやすさや若々しさの象徴でもありますが、一方で「太って見える」「子供っぽくて頼りなく見える」という悩みを抱えている方も少なくありません。
丸顔さんへの似合わせデッサンにおいて、キーワードとなるのは「メリハリ(直線感)」と「縦幅の強調」です。
眉山で「高さ」を作る
丸顔の方に対して、フェイスラインと同じような丸いアーチ眉を描いてしまうと、顔の丸さが同調して強調されてしまいます。
ここでは、あえて少しのエッジ(角)を効かせたデザインを提案します。
私が実際に丸顔のお客様をデッサンする際、特に意識しているポイントは「眉山の位置」と「高さ」です。
眉山を普段よりも数ミリ内側(黒目の外側直上付近)に設定し、そこからカクンと下ろすような角度をつけることで、顔の中心に高いポイントが生まれ、視線が上に誘導されます。これにより、顔の輪郭の丸さが目立たなくなるのです。
| デッサン部位 | 具体的な描き方のポイント | 狙い・効果 |
| 眉山(ピーク) | 黒目の外側直上あたりを目安に、少し高さを出して角を作る。丸み厳禁。 | 顔に高低差(立体感)を出し、のっぺり感を解消する。リフトアップ効果も。 |
| 眉尻(テール) | 眉頭の下のラインよりも下がらないように、スッと細く鋭角に抜く。長さは少し短めに。 | 顔の横幅を目立たせないようにし、顔の側面を引き締める。 |
| 全体のライン | 直線と曲線を組み合わせた「セミアーチ」や「ハンサム眉」。 | 輪郭の曲線に対して直線をミックスし、大人っぽい洗練された印象を作る。 |
注意点として、眉山を高くしすぎると「驚いた顔」になってしまうリスクがあります。
骨格(眉丘筋)の位置を指で触って確認し、筋肉が最も盛り上がる部分を眉山の頂点に設定することで、表情が動いても自然な「キリッとした印象」を作ることができます。

3. 面長さんの顔のバランスを整える眉
面長の方の最大の悩みは、「顔が長く見える」「間延びして見える」ことによる、実年齢より上に見られることです。
この縦の長さを視覚的に遮断し、顔をコンパクトに見せるためには、「横への意識」と「低重心」が鉄則となります。
平行ラインで「分断」する
面長さんのデッサンにおける最大のNGは、「角度のつきすぎた上がり眉」です。
眉に角度をつけると、視線が眉山に向かって上下に動くため、顔の縦の長さがさらに強調されてしまいます。
目指すべきは、床と平行に近いフラットなラインです。
顔という縦長のキャンバスに、横のラインを一本引くことで、上下の空間を分断し、顔を短く見せる錯覚を利用します。
眉と目の距離を詰める
私は面長の方のデッサンをする際、眉の下側のラインを描き足すことに注力します。
眉の下を描き足して目との距離を近づける(低重心にする)ことで、顔の中顔面(目の下から唇まで)の余白が目立たなくなり、キュッと引き締まった小顔効果が生まれます。
また、眉尻をいつもより数ミリ長く引く「長め眉」にすることも重要です。
こめかみの余白を埋めることで、顔の横幅を出し、縦の印象を緩和させるためです。
| 要素 | 面長さんへの推奨アプローチ | 避けるべきNGデザイン |
| 角度 | 平行(フラット)に近いライン。眉山の下を埋めて、角度を消す。 | 急角度の上がり眉。顔の長さを助長してしまう。 |
| 長さ | 口角と目尻を結んだ延長線上、あるいはそれより少し長め。 | 短すぎる眉。こめかみの余白が目立ち、顔が大きく見える。 |
| 太さ | 少し太さを出す。目の縦幅の2/3〜1/2程度を目安に。 | 極端に細い眉。顔の余白が増え、間延び感が強まる。 |
4. ベース顔さんの印象を和らげるアーチ
エラが張っているベース型や四角顔の方は、非常にフォトジェニックで意思の強さを感じさせる骨格ですが、日本では「小顔に見せたい」「柔らかく見せたい」という要望が圧倒的に多いです。
角張ったフェイスラインを持つこのタイプには、「曲線美」と「眉山の位置ずらし(外側重心)」でアプローチします。
曲線で角を中和する
輪郭に角(エラ)があるため、眉まで角のある形にしてしまうと、顔全体が四角く、ゴツゴツとした男性的印象になってしまいます。
そこで、眉全体に緩やかなカーブを持たせたアーチ眉を描くことで、輪郭の硬さを中和させます。
半円を描くような極端なアーチではなく、眉頭から眉山にかけてなだらかに上昇し、眉尻へ向かって優しく下降するような「ソフトアーチ」が最適です。
眉山を外側に逃がすテクニック
重要なテクニックとして、「眉山の位置を外側にずらす」という方法があります。
通常、眉山は黒目の外側あたりに設定しますが、ベース顔さんの場合、エラの最も張り出している部分とバランスを取るために、眉山を少し外側(目尻の上あたり)に設定します。
これにより、眉山・目・エラの3点が作る三角形のバランスが整い、視線が外側に分散されるため、エラの存在感が薄まるという高度な錯視効果が生まれます。
| 戦略 | 具体的な手法 | 期待できる効果 |
| 曲線の活用 | 眉頭から眉尻まで、角を作らないなだらかなアーチを描く。 | 直線的な輪郭(エラ、平らな顎)の印象を和らげ、女性らしさをプラスする。 |
| 眉山のシフト | 眉山の位置を通常より外側(目尻寄り)に設定する。 | エラの張り出した部分とバランスを取り、顔の横幅を目立たなくさせる。 |
| 色の濃淡 | 眉尻を濃くしすぎず、全体をグラデーションでふんわり仕上げる。 | 強い骨格に対して眉の質感を柔らかくすることで、親しみやすい雰囲気を作る。 |
関連記事はこちら:顔の形から診断!あなたに本当に似合う眉の見つけ方【完全版】
5. 骨格とパーツ配置を考慮したデザイン
ここまで顔型(輪郭)にフォーカスしてきましたが、さらに解像度を高めるには「骨格の凹凸」と「パーツ配置(求心・遠心)」を見る必要があります。
顔は平面の紙ではなく、複雑な立体構造です。
眉の下にある「眉弓(びきゅう)」という骨の出っ張りや、こめかみの凹みを無視してデッサンすると、表情を動かした時に眉が不自然に折れ曲がったり、横顔が美しくなかったりします。
触診で骨格を把握する
私がデッサンをする際は、必ずお客様に目を開け閉めしてもらい、指で眉周りの骨を触って確認します。
例えば、「眉弓(眉の骨)」が高い欧米型の骨格の方の場合、眉を細くしすぎると骨が露わになり、老けた印象を与えてしまいます。
この場合は、ある程度の太さを残して骨をカバーするようにデザインします。逆に、こめかみが痩せて凹んでいる方の場合、眉尻を長く描きすぎると、ラインが凹みに落ち込んで影に見えてしまうため、長さを慎重に調整し、ハイライトで明るさを出す提案をセットで行います。
求心顔と遠心顔の補正
目の配置も重要な要素です。目が中心に寄っている「求心顔」の方は、眉頭のスタート位置を少し離して描くことで、顔の中心に抜け感を出し、リラックスした印象を与えます。
逆に、目が離れている「遠心顔」の方は、眉頭を少し内側に寄せて描くことで、顔の中心を引き締め、知的な印象を強化します。
| チェック項目 | 観察すべきポイント | デザインへの反映 |
| 眉丘筋(筋肉) | 眉を上げた時、どこが一番盛り上がるか。 | 筋肉の盛り上がりを眉山に設定する。ずれると「ダブル眉(眉が2つある現象)」の原因になる。 |
| 眉弓(骨) | 眉毛の下にある骨の出っ張り具合。 | 骨の上に眉を乗せるイメージ。骨から大きく外れると横顔の立体感が損なわれる。 |
| 目の配置 | 目頭の位置と鼻筋との距離。 | 求心顔→眉頭を離してリラックス感を。遠心顔→眉頭を寄せて知的さを。 |

6. デッサンで似合わせのパターンを習得
理論を頭に入れたら、次は実践です。多くの技術者が勘違いしていることですが、美しいアイブロウデッサンに必要なのは、芸術的な「絵心」ではありません。
必要なのは、建築図面を引くような「正確な測量」と「ガイドラインの設計」です。
感覚でフリーハンドで描き始めるのではなく、顔というキャンバスに明確な基準点を打ち、それを論理的に繋いでいくプロセスこそが、再現性の高い似合わせデザインを生み出します。
黄金比の3点ガイドラインを極める
私が技術指導を行う際、最も時間を割くのが「3点の位置決め(マッピング)」です。
この3点(眉頭・眉山・眉尻)の位置が1ミリずれるだけで、顔の印象は大きく変わってしまいます。
それぞれの基準点と、それがずれた時に起こるリスクを理解しておきましょう。
| 基準点 | 基本の位置設定 | 位置がずれた場合のリスク・印象変化 |
| 眉頭(スタート) | 小鼻の膨らみの直上、または目頭の直上。 | 内に入りすぎ:険しく、神経質な印象になる。離れすぎ:間抜けに見えたり、鼻筋が低く見えたりする。 |
| 眉山(ピーク) | 黒目の外側から目尻の間。白目の終わりの直上が黄金比とされる。 | 内側すぎ:驚いたような「ビックリ顔」や古い印象に。外側すぎ:顔が平面的に広がり、大きく見える。 |
| 眉尻(エンド) | 小鼻と目尻を結んだ延長線上。眉頭の下のラインより下がらないこと。 | 下がりすぎ:顔全体がたるんで老けて見える。短すぎ:こめかみの余白が目立ち、顔が大きく見える。 |
美しいアウトラインを描くストローク技術
3点が決まったら、その点同士を繋いでアウトライン(枠)を描きます。
ここで重要なのがペンの動かし方です。一筆書きのようにスーッと一本の線で繋ごうとすると、皮膚の凹凸や弾力に負けて線が歪んでしまいます。
プロのコツは、「ショートストローク」です。
数ミリ単位の短い線を、小刻みに重ねながら繋いでいくことで、微調整が利きやすく、かつシャープなラインを描くことができます。
特に眉山から眉尻にかけての下のラインは、デッサンの美しさを決定づける生命線なので、息を止めるくらいの集中力で、毛一本分のズレも許さない精度で描きましょう。
「太さ」と「角度」のパラメータ操作
似合わせのパターンを無限に広げるためには、「形」だけでなく、「太さ」と「角度」という変数を操る訓練が必要です。
同じ平行眉の形であっても、この変数を変えるだけでターゲットとなる層や与える印象はガラリと変わります。
- 太さのコントロール:
- 太め(8mm〜): カジュアル、若々しい、健康的、意志が強い(K-POP風など)。
- 標準(6〜7mm): ナチュラル、清潔感、誰にでも似合う王道バランス。
- 細め(〜5mm): エレガント、都会的、大人っぽい、シャープ。
- 角度のコントロール:
- 強め(10度以上): クール、モード、リフトアップ効果(丸顔向き)。
- 弱め(平行〜5度): 優しい、穏やか、守ってあげたい雰囲気(面長向き)。
練習の際は、「今日は丸顔でカジュアルな太眉」を描いてみよう、「次は同じ丸顔でも、コンサバティブな細めのアーチ眉」にしてみよう、といった具合に、意図的にパラメータを組み替えてデッサンしてみてください。
この「引き出し」の多さが、サロンワークでの提案力に直結します。
関連記事はこちら:【顔型診断】あなたに似合うアイブロウデザインの見つけ方|黄金比で美人度アップ
7. 顔写真を使ったアイブロウデッサンの練習法
施術経験が浅いうちは、実際のお客様の顔でいきなり新しい形に挑戦するのは怖いものです。
人の皮膚は弾力があり、骨格の凹凸もあるため、平面に描くのとは難易度が段違いです。
そこで、まずは脳内イメージを正確に出力する訓練として、「顔写真(フェイスチャート)」を使ったデッサン練習を強く推奨します。
写真の上からトレースする
雑誌のモデル写真や、フリー素材の人物写真をプリントアウトし、その上から直接ペンで眉を描き込んでみるのです。
これにより、平面上で「どの位置に眉山を持ってくると顔がどう見えるか」を客観的に検証することができます。
自分の描いた線が、顔の印象をどう変えるのか、その影響力を体感するのに最適な方法です。
ネガティブスペースを見る目
このトレーニングの最大の目的は、「ネガティブスペース(余白)」を見る目を養うことです。
眉そのものの形を見るのではなく、眉を描いたことによって「おでこの広さがどう変わったか」「頬の面積がどう変化したか」という、空間の変化を捉える能力を鍛えます。
これができるようになると、実際の施術でも「あ、このままだと頬が広く見えるな」と直感的に気づけるようになります。
| 練習ツール | メリット | 練習のコツ |
| トレーシングペーパー | 何度でも書き直しができ、元の顔との比較が容易。コストも安い。 | 下の写真の骨格を透かして見ながら、骨格を無視しないライン取りを意識する。 |
| タブレット(iPad等) | レイヤー機能を使えば、一瞬で眉の形を切り替えて比較できる。修正も一瞬。 | 実際のメイクに近いブラシツールを使い、濃淡や毛並みまで再現してみる。 |
関連記事:【完全版】左右対称の眉が描けないあなたへ|アイブロウデッサンで克服するシンメトリーの法則
8. お客様一人ひとりに合わせた応用力
実際のサロンワークでは、教科書通りの均整の取れた骨格の人はまずいません。「右の眉丘筋だけ発達していて上がる」「左の眉骨だけ出っ張っている」といった「左右非対称(アシンメトリー)」への対応こそが、プロの腕の見せ所です。左右差を整えることは、似合わせの最重要課題の一つです。
基準となる「正解の眉」を決める
左右差を整える際、多くの技術者は「高い方に合わせるか、低い方に合わせるか」で迷走します。私の経験則では、以下の基準で判断すると失敗が少なくなります。
- 1. 筋肉の動きを見る: 目を開けた時、喋った時に大きく動く方の眉に合わせると、表情が自然に見えることが多いです。
- 2. 利き顔に合わせる: お客様に「写真を撮る時、どちらの顔を向けますか?」「前髪はどちらに流しますか?」と聞き、気に入っている側(よく見せる側)の眉を基準にして、反対側をそれに近づけます。
「完全な対称」を目指さない
また、定規で測ったように完全に左右対称にすることに固執しすぎないのも重要です。
元々の骨格自体が歪んでいる場合、眉だけ数値を揃えて対称にすると、かえって顔の歪みが強調されて見え、違和感が生まれることがあります。
数値的な対称よりも、パッと見た時の「視覚的なバランス(錯覚)」を優先させる勇気を持ちましょう。
時には、あえて左右で太さや角度をコンマ数ミリ変えることで、全体として対称に見せる高度なテクニックも必要になります。
| カウンセリング時の確認事項 | ヒアリングの意図 |
| 普段のメイクの悩み | 「右が描きにくい」など、お客様自身が感じている骨格の違和感を探る。 |
| 前髪の分け目 | 隠れる方の眉は多少大胆に補正してもバレにくいなど、デザインの許容範囲を知る。 |
| なりたい印象の優先順位 | 「似合わせ(骨格補正)」を優先するか、「好み(トレンド)」を優先するかの方針決定。 |

9. 描き分けでデザインの幅を広げる
「骨格的にはこれが似合うけれど、お客様のなりたいイメージは違う」。このような葛藤は日常茶飯事です。
例えば、丸顔のお客様が「クールな平行眉にしたい」と希望された場合。
「丸顔にはアーチが似合いますよ」と突っぱねて教科書通りの提案をするのは、二流の仕事です。
一流の施術者は、「似合わせ」と「希望」の接点を見つけ出し、微調整で描き分けます。
ハイブリッドデザインの提案
ベースは希望の平行眉にしつつも、眉尻にほんの少しだけ角(ピーク)をつけてシャープさを足す、あるいは眉頭の位置を少し寄せて求心的にし、クールな印象を作る、といった「ハイブリッドなデザイン」を提案します。
これにより、お客様の「なりたい」を叶えつつ、プロとしての「似合わせ」も担保できます。
3つのパラメータを操る
デザインの引き出しを増やすためには、以下の3つの要素を掛け合わせる練習をしましょう。
- 1. 形(フォルム): 平行、アーチ、コーナー、セミアーチ
- 2. 太さ(ボリューム): 太め(ナチュラル)、細め(エレガント)、標準
- 3. 質感(テクスチャ): エッジを効かせたはっきり眉、パウダー仕上げのふんわり眉、毛並み強調眉
これらをパズルのように組み合わせることで、無限に近いバリエーションが生まれます。
「丸顔×平行×ふんわり」なら可愛らしく、「丸顔×コーナー×はっきり」ならモードに。
お客様のファッションやライフスタイルに合わせて、このパラメータを自在に調整できるようになれば、あなたは「替えのきかないアイブロウリスト」になれるはずです。
10. プロとしてのアセスメント能力を高める
ここまで、顔型別のデッサン術や描き分けのテクニックについて、理論と実践の両面から解説してきました。
しかし、これら全てのテクニックを活かすも殺すも、すべては施術の最初に行う「アセスメント(評価・分析)」にかかっています。
最終的に、プロフェッショナルとアマチュアを分ける決定的な差は、手を動かす技術力そのものよりも、その前段階にある「観察眼」と「分析力」にあります。
お客様が椅子に座った瞬間、あるいはマスクを外した瞬間に、瞬時に顔型、骨格の凹凸、筋肉の癖、パーツバランス、そしてその人の纏う雰囲気までをスキャンし、「どこを足せばバランスが整うか」「どこを削れば悩みが解消するか」という最適解を導き出す力。これこそが、AIにも真似できない人間の職人技です。
デッサンとは、単に線を引く作業ではありません。その人の魅力を発掘し、コンプレックスを自信に変えるための「設計図」を描く、極めてクリエイティブで論理的な行為なのです。プロとしてのアセスメント能力をさらに高めるために、意識すべき3つの視点をご紹介します。
1. 「静」だけでなく「動」を見る
多くのアマチュアや経験の浅い技術者は、お客様が鏡の前でじっとしている「真顔(静止画)」に合わせて眉を作ってしまいます。
しかし、人間は動く生き物です。笑った時に目尻がどう下がるか、驚いた時に片方の眉だけが跳ね上がらないか、眉間に力を入れる癖はないか。
プロは、カウンセリング中の会話を通して、表情筋の動き(動画)をアセスメントします。
「真顔では完璧でも、笑うと眉尻が消えてしまう」といった悲劇を防ぐため、筋肉の動きを計算に入れたデザインを設計するのです。
2. 顔だけでなく「全身」を見る
眉は顔の一部ですが、その人のスタイルの一部でもあります。お客様の服装はカジュアルかフォーマルか、髪型はモードかフェミニンか、声のトーンは高いか低いか。
こうした「トータルルック」と「雰囲気」を観察することも重要なアセスメントです。例えば、同じ丸顔のお客様でも、バリバリのキャリアウーマン風の方と、森ガール風の方とでは、似合う(提案すべき)眉の質感や太さは異なります。
顔というパーツだけでなく、その人のライフスタイルやキャラクターまでを含めた「似合わせ」こそが、プロの仕事です。
3. 言葉の裏にある「潜在ニーズ」を読む
お客様の「平行眉にしたい」という言葉をそのまま鵜呑みにするのは危険です。
なぜ平行眉にしたいのか?その裏には「優しく見られたい」「若く見られたい」あるいは「面長をカバーしたい」といった、言葉にできていない真の目的(潜在ニーズ)が隠れていることが多々あります。
アセスメントとは、視覚的な情報収集だけでなく、対話を通じてこの核心を見つけ出す作業でもあります。「平行眉をご希望ですね。もしかして、少しきつく見られるのがお悩みですか?」と一歩踏み込んだ確認ができるかどうか。それが、お客様からの絶大な信頼に繋がります。
技術は練習すれば誰でも上達しますが、このアセスメント能力は「人への関心」と「日々の観察」でしか磨かれません。街ゆく人の顔を見て「あの人はここを直せばもっと素敵になる」とシミュレーションしたり、お客様の些細な変化に気づく感性を養ったりすること。
そうして培った「診断力」があるからこそ、あなたの描く眉は、単なるメイクを超えた「人生を変えるデザイン」となり得るのです。
理論を直感に変える、日々の視点改革
この記事では、顔型別の特徴から骨格理論、具体的なデッサン手法まで、プロフェッショナルとして知っておくべき「似合わせ」のロジックを網羅しました。これまで「なんとなく」で描いていたライン一本一本に、明確な意図と理由を持たせることができるようになったはずです。
重要なのは、これらの知識を知識のまま終わらせないことです。理論を現場で何度も実践し、トライアンドエラーを繰り返すことで初めて、知識は「直感」へと昇華されます。パッと顔を見た瞬間に、「この骨格なら、眉山はここだ」と手が勝手に動くレベルを目指しましょう。
明日からのサロンワークやメイクの質を高めるために、まずは以下の2つのアクションを実践してみてください。
- 「観察の言語化」:街中や雑誌で素敵な人を見かけたら、「なぜその眉が似合っているのか」を骨格の視点から一つ言語化してみる。(例:「エラが張っているから、眉山を外に逃がしてバランスを取っているんだな」など)
- 「アセスメントの習慣化」:施術前のカウンセリングで、必ずお客様の顔の「重心」と「余白」を確認し、カルテに記録する習慣をつける。
確かな理論に裏打ちされたデッサン力は、決してあなたを裏切りません。お客様の「なりたい」と「似合う」を繋ぐ架け橋となり、鏡を見るたびに笑顔がこぼれるような、最高のデザインを提供していきましょう。
